実践のAI

ハーネスとは何か: AIを本当に働かせるインフラ

ハーネスとは何か: AIを本当に働かせるインフラ

シリーズの第1回で、Prologのtechを作り直そうと思わせた違和感について書いた。最後に、それぞれのパーツを開けていくと約束した。まずは、いちばん理解に時間がかかったものから始める。ハーネスだ。

先に断っておくと、ここに魔法の公式はない。私が読んだこと、他社がやっているのを見たこと、そして私たちが試していること。うまくいったこともあれば、失敗したこともある。

感じているのに言葉にできない何かを、何ヶ月も追いかけていた。

足りなかった言葉

3人の会社が、昔は30人でやっていた量を出しているのを見ていた。そしてその伸びはモデルにあるのではないと気づいた。みんな似たようなモデルを使っているからだ。伸びは別のところにあった。でも私にはその言葉がなかった。

2026年2月、OpenAIがHarness Engineeringという記事を公開して、私にその言葉をくれた。

彼らの定義は短い2行で始まる。「人間が舵を取る。エージェントが実行する。」そしてその次に来るものが、考え方を変える。エンジニアリングチームの主な仕事は、もはやコードを書くことではなく、環境を設計し、意図を明確にし、エージェントが信頼できる仕事をできるようにするフィードバックループを作ることになる。

そこにある一つひとつが、本物の仕事だ。エージェントが動く環境を設計する。手順ではなく、何をすべきか、その意図をはっきりさせる。そして、AIが正しくできたかどうかを伝え、自分で直せるようにするループを組む。

その文から何が消えたかに注目してほしい。コードを書くこと、だ。OpenAIはコードが重要でないと言っているのではない。AIがその大半を書くようになったとき、人間の仕事が一段上のレイヤーに移る、と言っているのだ。そして何かが壊れたとき、問いも一緒に変わる。「もう一度やってみろ、もっと丁寧に」ではなくなり、「AIが正しくやるために、環境にどんな能力が足りなかったのか」になる。バグはAIのせい(「こいつはバカだ」)ではなくなり、その周りに何が足りなかったのかという問いになる。

つまりハーネスとは、AIが見て、理解して、実行できるように、コードとプロセスと仕事を整えることだ。買ってくるツールではない。チームが何を届けるかについての、新しい考え方だ。

モデルは一つのこと、ハーネスは別のこと

これを頭に刻むのにいちばん端的だったのが、LangChainのエンジニア、Vivek Trivedyの一言だ。「モデルでなければ、それはハーネスだ。」

モデルは生のLLMだ。Opus、GPT、なんでもいい。テキストが入って、テキストが出る、それで終わり。そしてモデルはほぼ誰でも持っている。コモディティだ。10%を得る側と5倍を得る側の差は、モデルにはない。

差はハーネスにある。ハーネスは残りのすべてだ。コード、AIが呼び出せるツール、AIが見えるコンテキスト、hooks、オーケストレーション、AIが動くsandbox、メモリ、業務ルール。仕事があなたのところに仕上がって届く前に、フローの中でモデルを包むすべて。

「context engineering(コンテキストエンジニアリング)」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。それはこの一部で、AIが見えるものを整える部分だ。ハーネスはもっと大きい。コンテキストを含むが、ツール、hooks、sandbox、永続化、オーケストレーションも含む。コンテキストは一部で、ハーネスは全体だ。

モデルでないなら、それは harness

モデル vs. harness

Harness · モデルを包むすべて
コード
コンテキスト
ツール
Hooks
モデル 生のLLM テキストが入り、テキストが出る
オーケストレーション
Sandbox
メモリ
業務ルール

モデルはコモディティで、ほぼ全員が同じものを使う。10%の伸びと5倍の伸びを分けるのは、その周りにあるものだ。

モデルは芯。ハーネスは、届けるフローの中でモデルを包むすべて。

ハーネスとは、すべてをAIが読めるようにすること

ハーネスを一つの原則に煮詰めるとしたら、こうなる。すべてをAIが読めるようにする。

前回の記事で、私を捉えた診断について書いた。Prologのコンテキストは散らばって生きていた。ある一部はNotionに、別の一部はDriveに、また別の一部はJiraに、Figmaに。単一の情報源がなかった。AIとの新しい会話はどれもゼロから始まった。必要な情報が5つの場所にあって、どこにもきちんとまとめられていなかったからだ。

これをハーネスのレンズで読み直すと、問題は明らかだ。AIには見えなかった。そしてAIが見えないものは、AIは使わない。

CREAOのCTO、Peter Pangは、過激に聞こえるがまったく理にかなった決断を語っている。彼はコードを全部ひとつのmonorepoに統合した。理由は整理のためではない。AIが一度にすべてを見られるようにするためだ。

それが仕事だ。賢いプロンプトでもなければ、小技でもない。散らばっていて、暗黙で、人の頭の中だけに生きているものを取り出して、一箇所に、書き出して、エージェントが手を届かせられる形で読めるようにすることだ。ときに退屈だ。でも、まさにそれが10%の伸びと5倍の伸びを分ける。

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証拠: エンジニア3人、100万行

私は生まれつきhypeを疑う。だから、これが一時の流行りではないと私を納得させたのは、数字のある事例だった。

OpenAIのコマンドラインツール、Codex CLIを作ったチームはエンジニア3人だった。数週間のうちに、およそ100万行のコードを出した。アプリケーション、インフラ、tooling、ドキュメント。そして手書きのコードはゼロ行。チームが自ら掲げた哲学は「手動で書いたコードはなし」だった。およそ1500本のpull requestで、すべてマージされ、一つとして人が打ち込んだものはない。3人が舵を取り、AIが作った。

混同しないように。OpenAIには、コード向けに訓練されたモデルのCodexと、ツールのCodex CLIがある。3人はモデルを、ツール経由で使い、そのツール自体を作った。ものが、それ自身で自分を作っていく。

そしてそれで終わりではない。OpenAI全体で、Codexが会社のpull requestの100%をレビューしている。

私にとって決め手になったのは、OpenAIの数字だけではなかった。CREAOのPeter Pangが、誰とも示し合わせず、別の道から同じ結論にたどり着いていたことだ。異なる2つの場所が、同じことを描いていた。それが起きるとき、たいてい流行りではない。パターンだ。

OpenAI · Codex CLI を作ったチーム

3人が舵を取り、AIが作る。手書きのコードはゼロ。

3
エージェントを操るエンジニア
~1M
数週間で書かれたコードの行数:アプリ、インフラ、tooling、ドキュメント
~1.5k
マージされた pull request、人が打ったものはゼロ

no manually-written code チームが掲げた哲学。そして OpenAI 全体で、Codex がすべての pull request の100%をレビューする。

この用語がhypeに聞こえなくなった事例。3人が舵を取り、AIが作る。

AI-assistedはAI-firstと同じではない

ここで、Prologがどこにいるかについて正直にならないといけない。

AIで仕事を補助することと、AIを仕事の中心に置くことのあいだには、ほとんど誰も気づかない違いがある。

AI-assistedは、人間が中心で、AIは端に差し込まれている。同じスプリント、同じボード、同じ会議、同じフロー。AIは、すでにあったプロセスの中で手伝う。伸びは本物で、そして小さい。10%、20%。ほとんどの会社がここにいる。今のPrologもここにいる。私はそれを違うふりはしない。

AI-firstは、AIが中心で、人間が舵を取る。エージェントが主たる作り手だと前提し、プロセスも、アーキテクチャも、その周りの組織まで作り直す。人間は批評し、検証し、判断する。伸びは別の次元だ。5倍、10倍。Codex、CREAO、Anthropicがやっていることだ。

Peter Pangが言うように、その違いは掛け算であって、足し算ではない。だからこそハーネスがこれほど重要になる。すでにあるものにAIを差し込んでAI-firstにたどり着くことはできない。AIが見て、理解して、実行できるように作り直して、そこにたどり着く。つまり、ハーネスを作ることで。

そしてこれはエンジニアリングだけの問題ではない

OpenAIの一言、「主な仕事はもうコードを書くことではない」は、エンジニアリングを念頭に書かれた。でも主語を入れ替えて読み直したら、techのあらゆる職種にあてはまった。

プロダクトはもうドキュメントを書くだけではない。エージェントが解決策を提案できるようにする。デザインはもう画面を描くだけではない。エージェントがシステムの中でインターフェースを生成できるようにする。QAはもうテストを手で回すだけではない。エージェントが検証できるようにする。データはもうクエリを回すだけではない。エージェントが業務の問いに答えられるようにする。

そのどれもで、問いは同じになる。エージェントがこれをやるために、どんな能力が足りていないのか。そして、それをどうやってエージェントに見えて、コントロールできるようにするか。

ここから私が持ち帰るもの

ハーネスは、買ってくるツールでもなければ、契約するより良いモデルでもない。仕事だ。人の頭の中にあり、10のシステムに散らばっているものを取り出して、一箇所に、機械が使える形で読めるようにする仕事。

退屈なのは、近道がないことだ。いいのは、仕事である以上、やればできることだ。私たちはその真っ最中にいる。AI-firstからは遠く、2ヶ月前よりは近い。これからも、進み具合を書いていく。

出典

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